海を渡った日本人移民・移住者と郷里とのつながり
~現在に遺る日本人移民・移住者が出身地域に遺した記憶・痕跡~
日本各地に遺る「日本人移民・移住者の記憶・痕跡」-顕彰碑が語る物語
まずは日本人移民・移住者の記憶・痕跡を今に伝え遺すものとして、顕彰碑に着目してみます。日本各地には、海を渡った日本人移民・移住者やその移住を支えた人たちの顕彰碑が数多く残されています。筆者が確認する範囲では、全国に38件の事例が現存しており、そのうち特定の個人を顕彰する碑が23件あり、それ以外の15件は移民・移住事業自体の顕彰を目的とした碑(例:周年事業の際に建立されたもの等)があります。
人物を顕彰する碑
人物を顕彰する碑は、全国で20件以上現存しているものが確認できます。多くは、日本人移民・移住の促進に大きく貢献した人物や、郷里に多大な貢献をした人物を、出身地域の人々が後世に伝え遺すために建立したものです。
筆者が把握する最も古いものは、1921年の「木曜島渡航先輩・山西由蔵君石碑(和歌山県周参見川右岸、1921年:オーストラリア・木曜島)」と1925年の「『マルジマ・コロンブス』の碑(愛知県愛西市、1925年:北米)」で、明治時代の移民の功労者を称えたものです(山西由蔵氏は1898年に渡航、マルジマ・コロンブスこと山田芳男氏は1881年に渡航)。
1930年代には、戦前のハワイやカナダへの移民に尽力した工野儀兵衛翁(工野儀兵衛翁之像(美浜町、1931年:カナダ移民))や當山久三氏(當山久三之像(沖縄県金武町、1931年:ハワイ移民)))などの像が建立されています。また、1960年代からは南米への移住に貢献した水野龍氏(「水野龍顕彰碑(佐川町、1962年:ブラジル移民)」)や崎山比佐衛氏(崎山比佐衛碑(本山町、1963年:ブラジル移民))を顕彰する碑が登場します。この流れは、ハワイ・北米から南米へと移住が広がっていた歴史と重なります。
さらに特徴的な動きとして、こうした顕彰碑が2000年代以降に新たに設置されることが増えている点です。2000年代には「和田・フレッド・勇 顕彰のレリーフ(御坊市、2004年:北米)」「上塚周平銅像(熊本市南区、2007年:ブラジル)」「平野運平胸像(掛川市、2008年:ブラジル移民)」が建立されます。また、2010年代に「福島ハワイ移民の父・勝沼富三氏の顕彰碑(福島県三春町、2017年:ハワイ)」、2020年代には「ジョージ・アリヨシ氏の銅板レリーフ(福岡県豊前市、2020年:ハワイ)」「エリソン・オニヅカ氏の銅板レリーフ(福岡県うきは市、2020:ハワイ)」「ダニエル・イノウエ氏の胸像(福岡県八女市、2021年:ハワイ)」「工野儀兵衛翁之像(美町町、2021年:カナダ)」等が建立されています。このように、人物を継承する碑は、現代になっても新たに建立されるなど、記憶の継承の取組がみてとれます。
移住そのものを顕彰する碑
筆者が把握する最も古い例は、1979年に神戸市に建てられた「ブラジル移民発祥之地碑」(神戸市、1979年)です。それ以降、1990年代後半から2000年代にかけて、多くの碑が建てられました。多くの場合、そのきっかけは、移民・移住から100年などの節目となる周年事業の一環で建立されたものです。例えば、和歌山県串本町の「木曜島移民顕彰碑(和歌山県串本町1998年)」は、日本からオーストラリア・木曜島への真珠貝ダイバー移民を顕彰するもので、木曜島への渡航百周年にあたる1979年に同島に慰霊塔が建立されたことを受け、日本側でも1998年に設置したものです。また、「高知県人中南米移住乃碑(高知県佐川町、2008年)」も1908年に高知から海を渡ったブラジル移民(佐川町出身の水野龍が主導)を顕彰するため、百周年にあたる2008年に南米移住者有志が佐川町に建立したものです。横浜市の「日本人ペルー移住100周年記念像『リマちゃん』(横浜市西区、1999年)」も同様に、周年事業の一環として建立されています。こうした記念碑は、単に歴史を後世に残すだけでなく、国や都市の交流や友情を深める役割も果たしてきている点も特徴的です。
なかには周年事業とは異なる動きもあります。横浜市中区の「横浜市新港ふ頭のララ物資記念碑(横浜市中区、2001年)」は、戦後に海外から届いた救援物資「ララ物資」の功績を伝えるため、市民や団体の募金で建てられました。また、神戸港の「神戸港移民船乗船記念碑(神戸市、2001年)」は、阪神・淡路大震災をきっかけにブラジル日系人社会とのつながりが深まり、その歴史を残そうという声が高まって実現しました。
顕彰碑が伝えるもの
これらの顕彰碑は、海を渡った人々の苦労や功績を伝えるだけでなく、国際交流、災害復興、地域活性化など、さまざまな文脈と結びついています。節目ごとに歴史を振り返り、形として残してきた背景には、日本人移民・移住者と郷里とのつながり、そして彼ら彼女らの地域への貢献の歴史を未来に伝え遺したいという地域の人々の想いが込められています。
海へ渡った人々の足跡をたどることで、そこには日本と世界を結ぶ確かな物語が刻まれています。
渡邊 倫 / WATANABE Rin
東京大学大学院人文社会系研究科博士課程
現在に遺る日本人移民・移住者が出身地域に遺した記憶・痕跡に係る調査研究を実施中
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